Anastasia Opara様の CEDEC 2018 講演レポート 【前編】


今回の記事は去る8月24日にパシフィコ横浜で開催されました、CEDEC2018における、Anastasia Opara様のご講演についてのレポートとなります。

 Anastasia Opara 様は現在スウェーデンにあるEAの SEED (Search for Extraordinary Experiences Division) という部門に所属しています。Siggraph 2017、 GDC 2018、Everything Procedural 2018でご講演をされています。

 今回、Anastasia様からは“Functional Symbiosis of Art Direction & Proceduralism”「アートディレクションとプロシージャル法の実用的共生」、という内容でご講演を頂きました。

まず、講演の冒頭ではSEEDで作成した、PicaPicaプロジェクトのデモムービーとともに、プロジェクトについてのイントロダクションが行われました。

PicaPicaは、自動生成された工場を人工知能を持ったエージェントが動き回り、それをリアルタイムにレンダリングするという実験的なプロジェクトです。

アート的には

  • コントラスト調整による注目点操作
  • オブジェクト配置による注目点操作
  • プロシージャルを用いたアートデザイン

技術的には

  • ハイブリッドなリアルタイムレイトレーシングレンダリング
  • Deep Learningを利用したAIエージェント
  • プロシージャルなレベル生成

を実現しており、SEED内のR&Dによって製作されたHalcyonエンジンで実装されています。

次にアーティストがプロシージャルに触れ、アートディレクションに用いる上で、Anastasia様が提唱している注意事項についての説明がありました。

プロシージャルは一連のルールに基づいたものであるため、アートディレクションに対して視覚的な確実性を失い、最終的なアートを生成することが困難になることがあると警鐘されました。またプロシージャルを学習すると、ワークにプロシージャリズムを導入したいという誘惑に駆られやすいものです。プロシージャルを導入することは、有効な解決策であるかもしれませんが、選択肢はそれひとつではなく、場合によってはもっと良い方法があることもあります。

しかし、今回はあえてプロシージャルとアートディレクションを明示的に分けずに同時に作成、相互影響を与えて連続的に生成した過程についての紹介をしていくとのご説明がありました。

Anastasia様の考えでは、アーティストは何かと芸術を関連付ける傾向があるのですが、この関連付けは人間の脳内では「可能性のある空間」として定義されます。

アートディレクションとはこの空間を彫刻するようなイメージです。しかしこの作業には一部反復、またはそれに近いような作業があり、これらを切り出してパラメータやルールを見出し、平坦化してアルゴリズムとして落とし込むのがプロシージャルである、と主張されています。

ここまでが、Anastasia様としての、プロシージャルとアートディレクションについての考察内容となります。

ここからはPicaPicaについてのアートディレクションの解説となります。

 PicaPicaは工場のようなメカニカルな構造体とキャンディのようなポップな質感を組み合わせたものを目指しました。

ここで注意すべき点はコントラストの設定です。前提に既知の知識として、人間の視覚では色彩情報と輝度情報は別々に処理されております。つまりこれは色彩だけでなく輝度にも注意してコントラストを調整することで、2つのレイヤで見る人の注目点を操作できるということになります。

アートデザインでは、これを達成するため試行錯誤の結果、中心となる床をローコントラスト、壁のコントラストをハイコントラストとすることで輝度を分離しました。そして同時に壁には陰影による相互作用を強調するためにラフなマテリアルを、床はシンプルな形状なので壁やエージェントを反射するような滑らかなマテリアルを使用しました。

しかし改善されたとはいえ、これだけではまだ注目点が散漫している状態でした。原因はシーン内に大型構造物が分散配置されていたことでした。またスケール感も不自然なものであったり、エージェントの作成チームから提出されたエージェントが予想よりはるかにキュートなもので、今のアートデザインには似合わないなどの多数の問題があったため、一度すべてのアートデザインを見直すことになりました。

そこから何度も試行錯誤をした結果、中央にメインハブを作成し、そこから工場の壁に対してベルトコンベアを伸ばすという構造に落ち着きました。これによってメインハブに注目点を集中させることに成功しました。

このようにプロシージャルとアートディレクションは、アイデアが浮かんだらHoudiniで作成し、そこで問題発生した場合、アートデザインに戻る、という螺旋の様なフィードバックループを繰り返しながら収束して、最終的に中心にあるゴールにたどり着くようなイメージです。

以上がPicaPicaにおけるアートディレクションとプロシージャルについての概要でした。講演内容としてはまだ半分程ですが、ここまでを前編として、一度記事の方は区切らせていただきます。後編では PicaPicaに実際に使用したプロシージャルのアルゴリズムの紹介になります。