Houdini Procedural Artist セミナー 堀川 様 ご講演の報告【第1部】


 今回は去る8月26日にワテラスコモンホールにて開催された、EA SEED部門所属のプロシージャル アーティスト Anastasia Opara 様及びアルゴリズミック・デザイナー の堀川 淳一郎 様をお招きして開催されたセミナーの内容について紹介します。

 この記事は堀川 様 の「Houdiniで人工生命的アプローチによる造形手法の考察」講演についての紹介、第1部になります。

 内容としましては、

・【第1部】Houdiniを媒体に人工生命の研究で使われているアルゴリズムを用いた3次元デザイン

・【第2部】Flocking (群知能)や拡散反応系(Gray-Scott model)、遺伝的アルゴリズムなどの三次元造形への活用

 の2点となります。

 

 講演冒頭では、堀川様ご自身のCGに関する遍歴についてのご紹介がありました。堀川様がどのようにしてCGに興味を持ったのか、今どんな分野に興味を持っているのか、ということについてお話されました。

 次にパラメトリック手法とプロシージャル手法についての説明が行われいました。一般的に建築業界ではパラメトリック、ゲーム業界ではプロシージャルという言葉が同じ意味としてよく使われていますが、厳密にはこれらは異なったものであるということが説明されました。

 パラメトリックというのは最終的な形状生成を何らかの手法において生成し、それを後からパラメータを用いて修正可能にするという手法であり、それに対してプロシージャルというものは機能ごとに部品化、ノード化してモデリングの過程を可視化することで後からパラメトリックに修正を行いやすくするという手法であります。

 つまりパラメトリックとプロシージャルは同レイヤの概念ではなく、プロシージャルはパラメトリックを内包できるし、逆にパラメトリックもプロシージャルを内包できる手法、概念であります。Houdiniはパラメータを変更することで後からモデルの修正を行えることから、パラメトリックを内包したプロシージャル手法であるということを仰られていました。

※ここでいうパラメトリックとは、統計学において定義されるものとは異なる意味であることをご留意ください。

 その後、配列、パターン、アイソサーフェス、物理シミュレーション、再帰計算などの著名な手法について触れられた後に、ジェネラティブデザインについての説明がありました。これは今、堀川様が最も熱いと考えられている手法で、1フレームごとの時間軸においておきた自身の変化や環境の変化に基づいて自身を変化させて生成を行っていくという手法になります。ここでは一例として粘菌の生成シミュレーションを紹介されました。

 このファイルではある指定した一点から粘菌を発生させ、3次元の空間を埋めるように枝葉を伸ばしていく造形になります。

 また、このジェネラティブと直前に触れられた再帰計算については、分野の裾野がすごく広く、現状これらの幅広い分野をジェネラティブ、再帰計算をひとまとめにしているカテゴライズが果たして正しいのか、という議論についてもまだ余地が残っているそうです。

 次に堀川様は人工生命についてのご説明を行われました。昨今よく耳にする人工知能(AI)と似たようなネーミングですが、これとは本質が全く逆のものとなります。人工知能は決められた目的に対して、それを達成するような挙動を自動的に生成するトップダウンなシステムなのに対し、人工生命は何かを生成するような環境だけを与えることで、どのような結果が出力されるかを観測するというボトムアップ式のシステムになります。この人工生命の考え方はジェネラティブデザインの考え方にも沿っていることから、生命的な挙動を期待させる人工生命をジェネラティブデザイン上に実装すれば面白いのではないか、というのが今回のご講演の本筋です。

 

 ここからは実際に堀川様の作成された人工生命による造形の紹介になります。まずはカオス理論という著名な手法についてです。これは力学的には単純な動きのはずなのに、実際の挙動が複雑になり事実上挙動が予測不可能になるものを推測する理論です。

 このカオス理論でしか説明できない挙動によって生成された幾何学模様をストレンジアトラクタといい、これをHoudiniで再現すると、このようになります。

 これはある点の位置から数式によって次の点を作成し、また次のフレームでは前のフレームで作成された点から、また同じ数式で次の点を作るという処理を繰り返す、再帰処理を含んだものとなります。これはパラメータを変更するだけで様々な予測不可能な物体を生成することができます。

 

 次に紹介されたのがセルオートマトンです。これは画面をセル単位に分割し、周りのセルの状態を確認し、その状態によって次のフレームの自分の状態を決定するというもので、以下のようにマスが黒と白に塗られるオートマトンの場合、「周りのセルが2個以上黒かったら次のフレームでは自分も黒になる」、などと言ったルールを複数作成し、それによってあたかもセル同士が知能を持った生き物であるかのような振る舞いをすることが知られています。

 これを利用して堀川様はHoudini上で雪の結晶を作成されました。これは雪の結晶を再現するという論文に記述されていた数式をHoudini上で六角形のセルに適用したものになります。

 次に堀川様が紹介されたのが反応拡散系の手法になります。これは空間に詰まっている点群や物体の濃度を見るもので。自分の周りの物体の濃度によって自身の状態を変更するものです。これは一般的には2Dで行われることが多いのですが、計算式に1軸追加するだけでHoudini上で再現することが可能です。

 ここまでが第1部の内容となります。第2部では、Flocking (群知能)や拡散反応系(Gray-Scott model)、遺伝的アルゴリズムなどの三次元造形への活用についての紹介となります。